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木を知り木の家に住む

木を知り木の家に住む

ちょっと専門的な話と作り手の本音をお話しします。
木の家で幸せに暮らすために、木の長所と短所を、ちょっと専門的に、またマニアックな視点から詳しくご紹介します。
工務店の本音もすこし語らせていただきます。

1.家づくりに使われる木とは

木で「人の住む家」をつくることは、理屈で確かめるまでもなく、人の肌身に合った最善の方法だと思います。木で家をつくること、木でつくられたものと共に暮らすことをおすすめするのは、この理由につきます。

木の家のメリットはいくつもあります。住まう人にもつくり手にも、木は人懐っこい材料なのです。

【わかりやすいいくつかの長所】
●肌触りがいい。多孔質でさらっとした質感に仕上がる。(オイル塗装などの含浸系の塗装はこうなります)
●見た目が自然。同じものが2つとない木目の不均一さこそが自然な感じの所以。
●匂いがいい。特に国産材は癖のないよい香り。
●気軽にメンテナンスでき、削ったり磨いたり、を受け入れてくれる。
●調湿作用があり、快適性につながる。

家づくりを生業としていて、しみじみ感じるメリットもあります。

【マニアックなところでの長所】
●軽くて強度がある。それゆえに建物の重量を抑えてつくることができ、基礎工事のコストも抑えられる。家の材料として、性能に優れ理に適っている。
●加工がしやすい。最良と思うつくり方を受け入れてくれる。人が使う素材の中で最古のものの一つとなっているのはこのためであり、木を扱う知恵と工夫は千年以上もかけて蓄積され、加工道具も充実している。
●朽ちかたが優しい、美しい、徐々に朽ちていく。(朽ちないものはなく、どう朽ち、どう直すかが耐久性ということ)

金属やコンクリートと比べて劣ることもあります。

【木の短所】
■屋外使用の場合は、紫外線と風雨にさらされていずれ朽ちる。
■腐朽菌が蔓延すると腐る。
■シロアリなどの昆虫や微生物にも人気がある。
■柔らかい樹種は傷がつきやすい。
■環境に馴染む性質があるために、急激に乾燥すると割れる。
■温度により伸縮し、反りや隙間が生じる。
■人工の素材ではないから、色、柄、節の入り方にばらつきがある。
■シミがつく。変色する。

長所にも短所にも、その反面があります。見た目のばらつきなどは、長所でもあり短所でもあります。
いずれにしても、このような特徴を持つ「木の家に住む」ことは、人にとって当たり前で自然で純粋なことではないでしょうか。
樹齢60年から100年の木を伐採すると思えば大切に使いたい気持ちが湧いてくるし、日々木を扱っていても木の魅力は計り知れないと感じることもしばしばあります。
長所はもちろん、短所も受け入れることが木の家に住むということになります。知恵と工夫で克服できる短所もあれば、考えかたや付き合いかたで短所が愛着に変わることもあります。

イシハラスタイルは、木の長所を生かし、短所としっかり向き合います。木目を印刷したビニールでラッピングされた工業製品に切り替えたり、欠点が出やすそうな部分を隠す工法に切り替えたりすることがいい方法だと思っていません。

2.「家の傷」について

イシハラスタイルの木の家は、木工事の最初の工程、「上棟」の時点から化粧材(完成時に仕上げに現れる材料)を多用します。レッカーで大きな梁を持ち上げて、現場で組み上げる作業を行います。
細心の注意を払っても、多少の傷はついてしまいます。上棟後は傷をつけないように養生を施して、数ヶ月の間、大工工事の造作を行い、電気、水道、内装の工事も入ります。
傷に無頓着な職人は一人もいません。しかし、慎重に作業を行なっても、建築工事の途中で傷がついてしまうことは避けようがないことでもあります。

傷がついてしまうことはしょうがないことだといって、そのままお引き渡しするわけではありません。化粧梁・化粧柱や窓枠の当て傷は、サンドペーパーで削り均し、床の凹み傷は濡れ布巾を当ててアイロンで膨らませてからサンドペーパーで補修します。

完全に元通りにはなりませんが、できるだけ目立たないように復元します。暮らしながらついてしまった傷は、そのうちに馴染んでいき木の味にも感じられます。しかし、引き渡し時についている傷については、クレームやお叱りを受けることもあります。
木の家づくりに関わる者なら必ず経験することだから、すべての職人は養生を施し注意を払って手を動かし、それでも傷つけてしまったときはできる限り丁寧に補修をします。

3.「木の割れ」について

木は割れます。小口割れと表面割れの二つがあり、屋外で使う材は、切断面からの小口割れが頻発します。導管が小口断面に現れ、水分を放出してそのあとに収縮する性質による現象です。屋内で使用する場合も小口割れは起こります。
表面割れは、表面が乾燥し収縮した際、表面と内部の力の勝ち負け(応力の大小)により、その力の逃げ道として割れが起こります。
こうした自然の割れは、強度にはさほど影響を及ぼしません。木材は、セルロースとヘミセルロースという繊維で形成されていて、置かれた場所の環境に馴染む性質があります。膨張と収縮を繰り返して割れを起こすこともその現れで、木材として自然な現象です。割れは、繊維が切断崩壊するのではなく、繊維と繊維の間に隙間ができた状態のため、大きく強度を落とすことはありません。
天板などに使用する「はぎ板」も割れることがあります。はぎ板とは、入手が困難でかなり高額な幅広の大きな一枚板の代わりとして、幅10~15cmほどの無垢材を接着剤で接着したものです。伸縮により、接着部分が負けるとはぎ合わせたところが割れ(剥がれ)ます。使用状況や経年変化にもよりますが、木の性質によりやむを得ないこともあります。

4.「床鳴り」について

4.高音を発する床鳴りの原因の大半は、木と木が擦れる際に発する音です。イシハラスタイルは、床材や階段に無垢材を使用するため、床鳴りする箇所が出ることがあります。床鳴りしないようにつくるのですが、材料の反りや収縮によって、どうしても出てしまいます。
床鳴りは、出る場所と出ない場所があったり、季節によって出たり出なかったりさまざまな出方をします。床鳴りしないようにするためには、反りにくい合板系の床材をウレタン系の接着剤でしっかりと塗り固める工法となってしまいます。これでは、木を使う意味が薄れてしまいます。
床鳴りが起こることがあっても、やはり無垢材を使うことを第一義として、できるだけ床鳴りしないように努めます。

5.「黒カビ」について

カビや木材腐朽菌は、自然界に当たり前に存在します。これらを排除することはできません。
カビや腐朽菌が活性化するためには条件があり、その条件にならないようにすることがカビや腐朽を抑える方法となります。カビや腐朽菌が活性化する4つの条件とは;
(1)温度:気温3~45℃(特に30℃前後がもっとも活性化する)
(2)水分:大気中湿度85%以上、木材含水率25~150%
(3)酸素:空気がないとカビも腐朽菌も生息できない
(4)栄養:木材の主成分であるセルロース、ヘミセルロース、リグニンが栄養となる

この4つの条件のうち1つでも欠ければカビも腐朽菌も活性化しないのですが、木の家でこれらの条件のいずれかを排除することはできないことです。4つの条件が常に揃っている状況では、カビや腐朽菌が活性化し、木材は腐りやすくなります。一時的にこの条件が揃うような状況では、黒カビが生じて黒シミになったりしますが、これは屋外の環境ではよく起こることです。
四季があり、朝晩があり、気温も湿度も天候も変わり続けるものですから、黒カビが生じたとしても、腐りがどんどん進行するということはありません。
黒カビが気になる場合は、木材用のカビ取り剤を使ってみることも方法としてはありますが、木材の状態が以前のように戻ることはありません。

6.「シミ・変色」について

シミや変色は、どれだけ丁寧に暮らしていても起こりうることです。経年変化と同様に、木の味わいと捉える方が木と大らかに付き合えるのではないかと考えます。
●水シミ:色が変わることに悪いことはありません。水を使って生活するのですから、自然なことです。
●金属による変色:タンニンが多く含まれるスギ、チェリー、レッドオークなどは、鉄や銅の金属イオンが水分を介して反応して黒色の化合物を生成することがあります。サンドペーパーで擦ると、多少色は薄くはなりますが、シュウ酸を使用した逆反応により薄くすることができます。
●アルカリ反応:せっけん成分を含むクリーナー、重曹のようなアルカリ物質と接触すると、木は灰褐色に変色することがあります。これもタンニンと反応するためです。
●酸による変色:レモンや酢など、弱酸性のものは比較的薄いシミになります。木材に含まれるポリフェノール成分との反応が原因と考えられています。アルカリ性の洗剤で拭くと元に戻る場合もあります。

7.「道具のような家」を木でつくる

もとより、イシハラスタイルが目指すのは「道具のような家」です。住めば住むほど、住む人の暮らしを受けとめて自分らしく快適な空間となる。そのために使う材料が木材であり、工業化材料や化学製品を最小限に抑えて家をつくります。
木の短所は、長所の反面です。短所をなくしたり隠すのではなく、木の特徴や付き合い方をお客様と共有して、木の家の長所を暮らしに生かしたいと考えます。
人の暮らしや工夫を大らかに受け止めて、徐々に変化していくこと、その大らかこそが木の魅力です。木の性質を生かすオイル塗装はご自分でも容易にメンテナンスできる仕上げのためおすすめです。オイル仕上げの木肌はゆっくりと経年変化を深めて、傷さえも味わいになります。一方、木であることを隠してしまうような意図で使われたウレタン塗装仕上げは、傷がついて捲れてしまえば見苦しく感じてしまいます。しかし、ウレタン塗装やラッカー塗装であっても、木であることを理解し、普段使いや使い込んだうえでできてしまった傷や塗装の捲れは格好良さにもつながるものです。自然素材である木の特徴を理解し上手に付き合うことで、木の特長が最大限に生かせると考えます。

8.「家の傷」と「心の傷」

木の特徴と木の家について専門的なことも交えて述べてきましたが、もう1つ、お伝えしたいと思った本音を申し上げます。
私たちは木の特徴を勉強しながら、木の特長を家づくりに生かすために日々奮闘しています。木の家こそが、人の住まいとして最良だと考えます。そして、そんな考えに共感してくださるお客様と出会うことに私たちは支えられています。
しかし、先に述べたように、お引き渡しのときに「家の傷」についてお叱りを受け、木の特徴や工事の事情をご説明しても快く聞き入れていただけないときもあります。これが、作り手側にとっていちばんの「心の傷」になります。木の割れやシミについても、住み始めてからご相談をいただくこともあり、最善の補修や対処はしますが、すぐにはご納得いただけないこともあります。
長い時間をかけて共に築いた木の家についてこのようなことがあるのが、実はいちばん辛いことであったりします。私たち作り手側は毎日のように木と触れ合っているので、つい言葉足らずで進んでいるようです。木の家に住むことは本当に素晴らしいことであると思っています。
「心の傷」に負けないよう、木のことをお客様に一生懸命伝え、ご理解していただき、愛着を持って木の家に住んでいただけるようこれからも努めていきたいと思います。