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道具のような家

道具のような家

家の仕様について

イシハラスタイルの家の仕様について、私の言葉で26項目にわたってご説明します。お客様一人ひとりの暮らしに合わせてお家のプランはそれぞれですが、「道具のような家」を具現化するため、私から見てこのようなものがいいのではないかという材料、工法、構造をまとめております。住みやすく、快適に、修繕ができ、長く存続可能な家であることを考え続けている中でたどり着いたのが、現在ご提案するイシハラスタイルの仕様です。

(1)地盤の工事

建物の重さのすべては地盤に載ります。地盤が安定していないと、いくら丈夫な建物をつくっても傾いたり、沈んだりする恐れがあります。予定地の地盤状況をできるだけ把握するために土地の歴史を調べる/近所に古くから住む方に話を聞くことは有効な手段です。
それに加えて、地盤調査をすることも重要です。地盤調査の方法も、ボーリング試験、SWS(スウェーデン式サウンディング)試験、超音波解析などありますが、古くから人の住むエリアで木造2階建てまでであれば、SWS試験を主に採用しています。
SWS試験は、現地にて実際にスクリューポイントを地盤に打ち込みます。建物の四隅と中央部、最小限5箇所は調査。深度は10mまで延長していくことが可能ですが、一定の硬さが確認できれば調査を終了します。この調査は、調査員が現地での打ち込む感触までを記入し、地中内のニュアンスを調査結果に反映していきます。
地盤が全体にわたって強固なことはとてもいいことですが、私たちの住む西尾市は河川に恵まれた平野部であり、河川で運ばれてきた土砂が堆積した地盤が多く、強固な地盤とはいいがたい場所も多くあります。「地盤調査=地震の際に家が壊れないようにするための調査」と、思われることが多いのですが、SWS試験はそうでなく、不等沈下をおこす恐れがあるかどうかを調べるものです。不等沈下とは、建物が載る地盤の一部分のみが沈下し、建物が傾いてしまうことです。
SWS試験とは、建物の建つ地盤のバランス調査というイメージです。調査結果はさまざまに現れますが、現況を把握し、結果を受け入れ、地盤の補強が必要かどうかを当社と共に見極め、補強が必要と判断すれば、どのような工法が適切なのかを選択していきます。
改良工事のなかでは、セメントによる地盤改良工事や鋼管杭を打ち込む工事、砕石を利用した砕石改良工事もあります。砕石改良工事は、基礎床版部分の下に30~40cmほどの穴を開けながら、西尾市であれば吉良町や幡豆町の採石場から入手した砕石を、転圧しながら入れていきます。砕石の柱を地中につくるイメージです。この地中の砕石の柱は、水を通すため浮力を生じさせず、液状化現象にも有効との報告があります。また、将来解体時に、地中内に産業廃棄物を残さないという点で素晴らしい工法です。

(2)基礎工事

建物の一番上部の屋根の重さは、小屋梁につながり、柱を通って土台に載り、基礎につながります。
建物のすべての重さは、基礎が支えます。したがって、丈夫な基礎をつくらなければなりません。
基礎はコンクリートでつくりますが、その基礎が載る砕石(割栗石)も重要です。摩擦力を利用し、重さを分散する効果があります。転圧をしながら砕石を敷きます。コンクリートの基礎は、ベタ基礎を計画することが多いです。建物全体の重さを、面で受けるイメージです。地盤面からの湿気が上がりにくいことも特長です。
その床版の厚さは150mmとし、内部の鉄筋はD-13mmでピッチは200mmです。立上りの基礎巾は150mmで、土台と緊結するアンカーボルトを多めに入れます。建物の地震や風による揺れにより、柱は土台から引き抜く力(引抜力)が生じます。反対に、柱から土台を押し付ける力(せん断力)も発生します。この引抜力やせん断力を計算し、構造躯体の設計をし(構造計算)その引抜力に耐えうる強固なホールダウン金物などを計画します。しかし、このホールダウン金物は、とにかく多く入れればいいというものではありません。この金物は主に柱に留めるのですが、取り付けるビスがたくさんあります。いろいろな方向からビスを柱に打ち付けると柱が穴だらけになってしまいます。構造計算をもとに、建物の揺れに対する引抜力やせん断力を理解し、適所に計画します。

(3) 耐震性のこと

日本全体にいえることでもありますが、愛知県は大地震の警戒地域です。いつ起こるかわからない地震は怖いものです。しかし、この地球上に住んでいる以上、自然界で起こるさまざまな事象は受け入れる覚悟をしなければなりません。
地震に打ち勝つということは、エネルギー量から考えれば不可能なことです。しかし、知恵を絞って工夫することは可能です。
もちろん、構造計算をし住宅性能表示制度における耐震等級を得ることも可能ですが、ここでは、まずシンプルに考えてみます。
地震の揺れに対してのことになりますが、地盤が揺れると、建物の高さが高くなればなるほど、横揺れの力は増幅します。重い部分(重心)が低いほど安定に近づき、前述した柱に加わる引き抜き力が小さくなります。したがって、2階建てよりも、平屋建ての方が圧倒的に有利となります。比較的土地にゆとりのある三河エリアでは、平屋建ての提案を多くしているのはこうした理由もあるからです。2階建ての場合でも、高さを抑えた計画は有利です。不必要な断面の部分の計画を避けることにより、建物の高さを抑えることにつながります。
柱や梁の軸組み材は、120mm幅の材料を使用します。単純に、細いよりも太い材料の方が折れにくいです。加えて、接合部の断面が大きくなります。その軸組み材は、在来工法の継手や金物を使用し組みあがっているのですが、水平力の揺れに対しては十分とはいえません。そこで、数十年前の日本の建築では、斜材(筋交いなど)を使用することが多かったのですが、昨今では、軸組材を耐力面材で固める工法が主流となってきました。
当社の基本的な考えも、この耐力面材を使用する工法となります。耐力面材は、各種メーカーから販売流通しています。どの製品も一長一短がありますが、当社では、耐震性能と調湿性能のバランスが取れたモイス(三菱商事建材)を使用しています。この耐力面材を使用した工法は、柱や梁の外部面にせん断力と引き抜き力に優れた指定の釘を指定のピッチで打ち付けるのですが、繰り返しの揺れに関しては安心だと言い切れません。
1度目の大きな揺れを受けたとき、耐力面材を使用した壁により倒壊は免れたとしても、その揺れで耐力面材が大きなダメージを受けていたとしたら、2度目、3度目では倒壊リスクが高まります。これを改善する工法もあります。耐力面材を打ち付けた耐震パネルを高精度でつくり、柱や梁の軸組み材の間に設置し、指定の釘でしっかりと留める工法です。120mm幅のなかに耐力パネルを入れることにより、よほどのことがない限り、外れたりダメージを受けることは考えにくくなります。これは、コーチパネル(コーチ株式会社)を使用した工法となります。浜松市のメーカーで、比較的距離も近く、地域柄、耐震に関しての意識も共通してます。
コストアップは否めないのですが、非常に理にかなった工法だと思います。当社の家づくりで採用される方は、半数程度おられます。建物のプランや形状との相性もあるため、効果が高そうな物件や耐震性をさらに高めたい場合には、このパネル工法をご紹介するようにしています。

(4)構造材のこと

構造材とは、建物のフレームを構成する材料のことです。当社では、国産の桧材、三河の杉材を主に使用します。集成材や米松材は、必要であれば使います。集成材はエンジニアリングウッドとも呼ばれ、梁せいの大きな材料を工場でつくることができます。
たとえば、インナーガレージなどのプランでは、間口を広く取りたいため、大きな材料を必要とします。また、建築地に制約があるなどし、構造材に安定した計算値が求められる場合も集成材は有効です。特に制約がなければシンプルな構造計画で、無理のないプランニングを心掛けているので、愛知県や岐阜県、三重県の山から採れる桧や杉を使います。近くの山から採れる材料を使うことは、近隣の山にお金を支払うことになります。私たちが飲んでいる水は、近くの山のおかげです。山を管理する方たちがいないと、安定した水の供給もままならなくなります。
国産の桧材は高級なのでは?と思われる方もいらっしゃいます。たしかに節のないきれいな材料は希少であるがゆえ高級ですが、節のある材料はなかなかお値打ちです。
近くで育った材木は、やはり、近くで使う。それは、LCC(ライフサイクルコスト)を下げることにもつながります。プランや計画により、適材適所で使用材料を選定します。

(5)木構造について

当社の建築は、木造が主です。比較的規模の大きいコンクリート造や、鉄骨造は詳しくありません。私自身、大工をやっていたこともあり木造が好きで、木造の建築に30年ほど携わっています。いろいろな木構造に触れてきていますが、基本的には、在来工法と呼ばれる継手の仕口を使った工法をすることが多いです。どの工法にも一長一短あり、建物の計画やプランによる相性もあります。ときには、部位によって在来工法と金物工法を組み合わせたほうがいい場合もあります。より良い構造となるように、物件ごとに検討を重ねます。
構造材は主に、岡崎市東阿知和町の製材工場(株式会社イトキ)から仕入れ、加工は海部郡飛島村のプレカット工場(東海プレカット株式会社)に依頼しています。
いずれも担当の方が決まっていて、毎回、しっかりとした打ち合わせのあとに加工をオーダーし、これを繰り返して積み重ねているおかげで、阿吽の呼吸で高品位な構造材を届けてもらっています。剛床工法と呼ばれる、厚合板を使い水平耐力を高める工法も常に採用しています。基礎の精度が求められる工法ですが、同時に、床下からの気密性能が上がります。
屋根の構成は、登梁を掛けるプランが多く、屋根にも厚合板を打ち付け水平耐力を高める工法とします。水平耐力を高め、その分散された水平力を軸組材や耐力面材に流していく工法です。

(6)断熱の工法について

当社では、充填断熱工法を採用しています。柱や登梁の間に、断熱材を充填する工法です。充填断熱工法を採用する理由は、確実な施工をすれば断熱性能が担保でき、無理のない理にかなった工法だと考えるからです。将来リノベーションを行うことがあっても、取り替えや改善などの対応がしやすいことも特長です。
壁の断熱材は、高性能グラスウール(アクリアネクストα105t熱抵抗値3.1)を使用します。耐震性の項で触れたパネル工法を採用する際は、発泡系断熱材(ネオマフォーム60t熱抵抗値3.0)を使用します。
屋根の断熱材は、高性能グラスウール(アクリアUボードNT160t熱抵抗値4.4)を使用します。床の断熱材は、発泡系断熱材(フェノバボード45t熱抵抗値2.4)を使用します。
2021年時点で、この仕様を用いた「外皮平均熱貫流率」いわゆるUa値は0.5以下の実績があり、愛知県は省エネ基準の6地域でのHEAT20基準値であるG1のUa値0.56以下はクリアしており、またG2基準ののUa値0.48も達成することが可能です。
ただ数字を追うことのみに捕らわれず、総合的に建築に大切なことを見失わず家づくりをしていきたいと考えています。床下の断熱は、基礎断熱工法、床断熱工法とありますが、当社では床断熱工法としております。基礎内部の床下は外気部分と考え、なるべく風が通りやすくなるように計画します。
さまざまな見解はありますが、何十年先を見据えてできるだけシンプルにできないかと考えるようにしております。なお、おすすめの断熱材のなかでは、コストアップにはなりますが、木繊維断熱材も相性がいいと考えます。木繊維断熱材は透湿性能が良く、蓄熱性を利用した断熱が計画できます。ご興味があれば、ご相談いただければと思います。
断熱工法、使用断熱材は、どれも一長一短があります。三河地方の気候や、建物の周辺状況、建物のプランにより、総合的に決めていくことがいいと考えます。

(7)屋根材について

よく採用されるのは、瓦屋根とガルバリウム鋼板の屋根です。
私たちの住む三河地方はかつてより、とても優秀な三州瓦の産地であります。 使用する瓦は、高浜市に本社を置く三州野安株式会社の平板瓦。ここで当社オリジナルの素焼き瓦をつくってもらいます。釉薬を塗ることをせず、いぶし瓦のように燻化もせずに、「素」の状態で焼成します。原材料は「土」のみ。隣町である安城市の良質な粘土をメインに瀬戸市の粘土もミックスします。素焼き瓦は、年数と共に大気中の埃や雨染みが付着していきますが、外壁で使用する自然素材の杉板と相まって、すばらしい経年美化をしてくれます。素焼き瓦は長期耐久性にも優れ、メンテナンスや更新はほぼ必要ありません。瓦は一枚一枚の交換ができるので、台風などで万一めくれたり割れたとしても補修が容易です。鋼板屋根に比べれば重量はありますが、適切に構造計算をして構造部材を選定すれば問題はありません。
ガルバリウム鋼板の屋根はシャープで軽快なデザインの屋根を計画できます。ガルバリウム鋼板といっても、並のもの(カラー鋼板)と、長期耐久性の良いもの(タイマカラー)とがあります。塗膜の性能が違います。当社ではタイマカラーを使います。色の出方もマットで、街並みや周辺環境に馴染みやすくなります。
ガルバリウム鋼板の屋根は軽いため耐震性には有利であり、屋根勾配が緩くても雨水の侵入リスクが少ないので、結果的に建物高を抑えることもできます。素材は薄く、蓄熱することがないため、外部温度に応答した考えで断熱計画をします。瓦を使用することもあります。三河はとても優秀な三州瓦の産地でもあり、好きな素材でもあります。
瓦は長期耐久性に優れ、一枚一枚の交換ができるので、台風などで万一めくれたとしても補修が容易です。いずれの場合も、屋根材の下には通気層を設け、雨の侵入を防ぎつつ、結露を防ぐ構造としています。

(8)軒について

軒は、広く大きく出す計画とすることが多いです。床面積には反映されず、俗にいう坪単価にも反映されません。軒を大きく出せばコストは上がる方向なので、ローコスト住宅の大半は軒の出は抑えられています。多少コストがかかっても、広く大きな軒のメリットはたくさんあります。風雨から建物を守り、紫外線を遮ります。このことは、外壁のメンテナンス周期を大きく伸ばしてくれます。
雨が降っていても窓を開けることができ、風通しが良く、冷房使用を抑えることができます。雨の日も、強い陽差しの日も、ちょっとした屋外作業ができます。住んでみると、軒下はとても使える空間であり、半屋外空間として活躍するでしょう。軒を大きく出すには、構造材の構成も大きく関わるので、計画段階から検討します。

(9)外壁材について

当社では、大きく三種類の材料のどれかで外壁を計画します。杉板か、ガルバリウム鋼板か、漆喰塗りです。
しっかりした軒があり風通しが良い場所では、杉板張りをおすすめします。工業製品のように廃番がなく、価格を抑えながら雰囲気もいいことが特長です。15mmほどの厚さがある木材であり、熱を遮る効果が高くなります。外壁という垂直面に張るので、水は切れます。悪い環境でなければ、そう簡単には腐るものではありません。数十年後、風雨や紫外線により劣化が起きても、部分的に取り替えることができます。「よろい張り」という伝統的な張り方で下から順に板を重ねて張っていくのですが、取り替えもしやすく、地震などの揺れの際は、蛇腹のように力を分散させ、外壁の大きな面にクラックをおこすことを防ぎます。無塗装も可能ですが、木材保護塗料を塗ることが多いです。外壁の杉板は、赤身勝ちのラフ仕上げです。木材の芯に近く、辺材(白身)に比べ耐久性は格段に上がります。表面をザラザラさせ表面積を上げます。そうすることで木材保護塗料の吸い込みを良くし、さらに耐久性を上げることにつながります。ガルバリウム鋼板はメンテナンスの心配が少ない素材です。工業製品のため、単調で無表情になりやすいですが、計画によっては、素朴でいい雰囲気にすることもできます。
漆喰塗りは、大工工事で木摺り下地をつくり、左官工事でラスモルタルの下地をつくり、仕上げに漆喰を塗ります。下地工程に時間も要し、仕上げ塗りにも左官人数も要します。コストはかかりますが、メリットも多くあります。漆喰は耐火性に優れ、強アルカリ性という性質上、有機物を分解する殺菌性があります。そのため、汚れにも強く、日本の風土に合った材料で、雰囲気もいいです。いずれの外壁材も、下地には通気層を設け、壁体内結露が無いような仕組みとし、周辺環境やその家の計画により選定していきます。

(10)窓について

木製サッシを計画することが多く、性能も雰囲気もとてもいいものです。
木製サッシの断熱性能は「最も高いもの」となります。使用ガラスはLow-eペアガラスです。国内の工場で生産した品で、何度も工場に訪問して打ち合わせを重ねてきました。使用する材料、精度ともに素晴らしいものです。自宅玄関でも20年以上使っていますが、大きな不都合はありません。木製サッシにせよ、アルミサッシにせよ、窓をつけることはコストがかかり、断熱性能に関しては不利に働きます。どこもかしこも窓をつければいいというものではなく、よく考えたうえで、効果的な窓を配置することが肝要です。
窓のない部分である「内壁」は、まとまりを持たせた、きれいな壁をつくることができることにつながります。風の通り、陽の入り方、間接光の具合、景色の見え方、室内の照度、こうしたことを複合的に考えイメージし、窓を配置します。

(11)床材について

主に杉の厚材を使用します。厚さは30mm。愛知県東栄町付近から採れる杉材です。
伐採に適した季節に木を切り製材し、丁寧に乾燥させるのでほどよく油分を残した色艶のいい床材となっています。決して節のないきれいなものではありませんが、生活空間と相性よく馴染む材料だと思います。サラっと足触りもよく、冷たさを感じず、直接寝転んでも気持ちがいい床になります。節や色むらがあるからこそ、生活に伴う細かい傷や汚れを許容してくれます。
当初は柔らかいのですが、年月が経つと表面が圧縮され、ほどよい硬さに落ち着いてきます。15mmの厚さでも十分なのですが、やはり厚板は、素材の持つ力を醸し出します。
杉材のほかに、同じ産地の桧材、輸入材のオークや、松、南洋材などのフローリングを使用することもあります。

(12)内装仕上について

当社オリジナルの珪藻土塗り(MPパウダー)、EP塗装(水性塗装)、杉や桧の板材、桧合板、ラワン合板、シナ合板を使います。雰囲気のお好みや、建物の計画により選定します。
珪藻土は、調湿作用に優れ、夏場のエアコン使用がかなり少なくなったという声をいただきます。
機能を持たせた壁としてはとても優秀です。
珪藻土塗りやEP塗装の下地は、石膏ボードに塗ります。石膏ボードは工業製品であり、品質が安定していて、安価である一方、数十年先も安心できる材料か、と考えると一抹の不安が残ります。加えて、石膏という性質上、ビスや釘を打ち付けても引き抜きの強度はほぼありません。近代以降、この地方での一般住宅建築では、土壁に仕上げ塗りをする土壁工法の家が多く、「壁はさわるものじゃない」とされていました。その流れで考えれば、石膏ボードに壁仕上げをすることは、まったく問題のない普通なことではありますが、もっと気楽に、壁も有効に使っていきたい、という考えの方には木質の内壁にすることをおすすめしています。杉板や桧合板を張った家は、とても気楽に、きれいに住みこなせます。
また、杉板にEP塗装(白系)を現場塗装した壁は、木の質感もあらわれ、白壁の空間に置く家具や調度品もコントラストが効いて、映え、ほどよくラフであり、ビスや釘も効き、私の好みでは、一番のお気に入りです。

(13)金物について(素材など)

コンセントなどのプレートも金属製であったり、屋外の雨樋も金属製とします。 金属の中でもいろいろな種類があり、その特性を理解したうえで計画します。 ステンレスは硬く、錆びにくい反面、いつまでもきれいすぎてしまうこともあります。 真鍮は、ほどよくエイジングしてくれて味わいが出る反面、柔らかい金属です。 いずれも、適材適所。数十年後をイメージしながら、金物の一つひとつをご提案します。

(14)内部建具について

地元の建具店に制作してもらいます。現場で採寸し、一本一本、丁寧につくります。
ラワン合板をデザインし使うことが多いです。ラワンは杉やオーク材との色目や木目の相性がよいと思います。使う金物は真鍮製が多く、毎日使っていくほどに愛着のわくものとしています。
木材という自然素材は季節(湿度)により収縮や反りを伴い、建具という動くものという性質上、 どうしても動きが悪くなることもあります。しかし、これは既製品に対しての弱点ではありません。 そのようなときは、サッと駆け付け容易に調整することが可能ですから。

(15)塗料について

まず塗料について理解しておくべきことがあります。特に屋外で使うものについてです。
屋外の環境はさまざまな事象によりとても過酷な状況だということです。100年ほどの人間の生きる時間軸のなかで、唯一ノーメンテで耐えられるものはおそらく石くらいしか存在しません。
そのなかで、少しだけ素材の寿命を延ばすための材料の1つが塗料です。この塗料に関しては、かねてからさまざまな塗料メーカーの製品を使ってきました。どの商品も一長一短あり、どれが一番良いと言い切れないのが本音です。耐久性が長い短いの差は数年レベルの差です。加えて、置かれている環境により大差がつきます。例えば、木材の外壁材の寿命を45年とします。こまめに最良の塗料を使って塗り替えを重ねて50年使えました、という感じでしょうか。塗料のもちは、塗料自体の性能の差も多少はありますが、それよりも、紫外線、雨、風の状況です。紫外線により塗膜が侵され、風が運んだ砂により削られ、雨により流される、という自然状況で剥離していきます。
これを解決できる塗料は存在しません。このことを理解したうえで、最近は水性のウッドエイドシリーズを使うことが多くなっています。シリコンが含まれ撥水性が良く、塗膜がほどよく厚く、木材との相性にも問題がなさそうだからです。数十年先にどうなっているかはなんともいえないところですが、水性のため有機溶剤の匂いがなく、刷毛などの洗浄が水でできること。新国立競技場でも採用されたこと(他塗料メーカーと沢山比較されたうえ)。加えて、実際に自らも曝露実験をしてなかなか耐久性が高そうでメンテナンスもしやすそうだと実感し、かつ国産品であること、価格も納得できるもの、などの理由からウッドエイドシリーズを使っています。屋内に使う塗料は、基本的には自然塗料と呼ばれるオイル系のものです。
オイル系塗料のクリアタイプは、肌触りがよく、基本的にメンテナンスが容易で、ウエスに塗って拭き取るだけで完了します。住まい手さんによるメンテナンスは、お家が一番喜ぶことです。オイル系塗料も、多くのメーカーから販売されていますが、どのメーカーも甲乙つけがたいところがあります。現在(2024年)は、プラネットカラーを使用しています。
お好みにより、建具や枠材に柿渋を塗ることもあります。これも毎年重ねて塗っていくと、何ともいえない素晴らしい味わいが出てきます。

(16)あかり(照明)について

照明は、空間やお好みに応じて計画します。
基本的な考え方は、「必要なところに必要なあかり」です。あかりを取り付ける高さも重要です。陽が落ちて暗くなってから、どのような作業をし、どのような効果を求めるか、しっかりとイメージを共有したうえで配置します。天井につける必要があるのか、壁につける必要があるのか、動かせるほうがいいのではないか、必要なときに足せばいいのではないのか、などたくさんの場合を想像し、シミュレーションをして決めます。
使う照明器具は、さまざまですが、素材がよく、きれいなあかりを出し、メンテナンス性が良いものを選ぶことを心掛けています。
それに加え、「イシハラスタイルの建築に本当に相性のいいあかりは何なのか」を追求し、オリジナルの照明器具も開発しております。

(17)キッチンについて

当社のオリジナル、タフなキッチン(R)を提案します。素材はオーク仕様のものとブラックチェリー仕様のものとありますが、いずれも道具として使いこなしていくキッチンがいいという考えにもとづいた仕様です。家具のように、床や壁のタイルが仕上がったあとに設置していきます。あとから設置するということは、パーツとして交換できるということです。扉や引き出しは、必要なところに設ければよく、不必要な扉は要りません。
毎日使うことに耐え、年月とともにキッチン自体も育ち、おいしい料理がつくれる土台で、家族みんなの笑顔が生まれてゆくキッチンであってほしいと願います。天板は、ステンレスでも木製でも製作します。木製天板に不安を覚える方も多いですが、当社のお客様は大半が木製天板を選んでいます。常時濡れっぱなしは木にとってよくない状態ですが、水仕事のあとにサッと拭いておけば大丈夫です。
厚みのある無垢材を使用しているので、傷や汚れも、気になるようであれば、年に1回程度、サンドペーパー片手にオイルでメンテナンスすればきれいな状態を保つことができます。
前述したように、どうしてもとなれば、天板のみを交換することも難しいことではありません。みんなが集まるダイニングにあるキッチンの計画では、木製天板のキッチンは空間にとてもよく馴染み、長い年月をかけて味わい深く育っていきます。

(18)お風呂について

在来工法の浴室を提案します。在来工法の浴室とは、ユニットバスではなく、タイルを貼ったお風呂です。設備として割り切り、交換することを視野に入れて住んでいくのであればユニットバスもいいものですが、壁や天井、浴槽もプラスチックの部材となり、自然素材で建てた家のなかで違和感を覚える空間となってしまいます。
一方で、当社で提案する在来工法の浴室は、床と壁にタイル、天井は水に強い桧の板を貼り、浴槽は鋳物ホーローのバスタブを置きます。埋め込まないことによって、漏水が起きているかどうか確認できないブラックボックスのない清潔な空間ができると思います。
シンプルな構成、工法により、費用の上昇を最少限に抑えます。
私の自宅も在来工法の浴室で20年以上経ちますが、新築当時とそんなに変わった印象はありません。メンテナンスや目地のカビについて心配される方も多いですが、どのようなものでもメンテナンスやお掃除は必要です。どこであれ条件がそろえばカビは生えます。しかし、タイルは非常にタフな素材であるため、ガシガシ掃除ができます。
また、天井の桧板はのちに取り替えができるつくり方をしています。毎日桧の香りを堪能しながら入浴することができます。

(19)その他設備について

トイレや洗面などの設備も、プラスチックの製品は提案はしません。
洗面台もなるべくシンプルに考え、素材を検討し計画します。キッチンに食洗機を取り付けたいというご要望は半数程度です。その場合は、フロントオープンタイプのミーレ社の製品を主に提案します。国内メーカーの商品よりシンプルな機能で壊れにくい印象があります。
エアコンは、国内メーカーのシンプルな機能の製品をおすすめします。多機能のものと比べて壊れにくく、コンパクトです。ガス機器も、シンプルな機能のものをおすすめしています。給湯機はガス給湯器かエコキュートをご指定していただきます。エコキュートは故障することが多い印象があります。修理もガス給湯器に比べ、高額になる場合が多い印象です。
やはりどのものにしても設備機器はどうしても壊れるものなので、最少限の機能が備わり、修理や交換が容易なものがいいと考えます。
多くの設備・家電メーカーは、新商品を毎年リリースし、ライバルメーカーからのシェアの奪い合いをしていますが、カタログスペック的には良くなっていても、本当に新しいものがいいのか、見極める必要があります。
設備の選定は、建築とは少し切り離して考えていったほうがいいかもしれません。

(20)カーテンについて

カーテンはインテリアの大きな要素であり、機能的な面も考慮する必要があり、実は、とても難しい部分です。整理して考えていくと、最適な解決方法が見えてくるのですが、しっかりとお話を重ね、どんな暮らしをしていくのかをしっかり話し合います。
当社では、リネン系の布を縫製し、真鍮のバーに吊るすことが多いです。夜勤などで、遮光性や遮音性を重視するのであれば、カーテンではなく室内に扉を設ける提案もします。柔らかい光を楽しめそうな場合は、和紙障子もすてきです。
きれいな色のドレープを吊るし、インテリアを楽しむのもとてもいいと思います。

(21)デッキについて

暮らし方を具体的にとらえて、必要に応じ計画します。ウッドデッキという言葉のイメージで希望される方も多いのですが、本当に木製のデッキが最適なのかを話し合います。
紫外線に晒され、水平面に木材を使用するので、木材にとっては過酷な環境です。いくら木材保護塗料でメンテナンスしても限界はあります。ウッドデッキを長く維持しようとする計画であれば、耐久性の高いウリン材などのハードウッドを提案します。重く硬く、施工も難しく材料費もかかりますが、数十年メンテナンス要らずで使えそうです。当社では、縁台のように使うウッドデッキを提案することがありますが、これには入手しやすい桧材を使います。ほどほどのメンテナンスをしながらウッドデッキを有効に使い、木の寿命がきたら、つくり替えます。
コンクリートでつくる、モルタルテラスを提案することもあります。ウッドデッキは室内寄りのものですが、モルタルテラスは庭よりのものになります。よりタフに使えますが、コンクリートの性質上、熱を蓄えやすいので、日射の照り返しなどに対する配慮が必要です。

(22)カーポート・フェンスについて

ここで述べるカーポートは、家に組み込むガレージではなく、屋根のみのカーポートのことです。当社では、オリジナルのガレージを提案します。アルミやポリカーボネートを使用しない、シンプルでかつ丈夫なものです。躯体は、鉄骨で溶融亜鉛メッキ(どぶ付け)処理。屋根材は、ガルバリウム鋼板の素地とします。要らないものを省き、シンプルなカーポートを提案します。外壁で囲い、シャッターなどもつけたガレージをご要望される場合は、ご相談ください。敷地外周部にフェンスを依頼されることもあります。当社では溶融亜鉛メッキ処理のスチールフェンスを提案します。丈夫で長持ち、かつ、経年変化もすてきです。

(23)庭について

家づくりと庭は、とても密接な関係があります。豊かなものの多くは、外からやってきます。光、風、緑、訪れる鳥たちや、季節感…。家庭菜園や果樹を植えることもできます。そして、そうした庭の豊かさに応答するのは、家の開口部やデッキの計画となります。したがって、家のプランニングの時点から合わせてお庭も計画できるとうまくいくケースが多いです。庭づくりは、信頼のおける地元の庭師(作庭嘉エ門)に担ってもらいます。植栽は、生きものですから、お手入れが必要です。ときには、植樹の元気がなくなったり虫がついたりもします。ご自分で剪定、メンテナンスすることは理想ですが、気楽に相談できる地元の庭師をご紹介するようにしています。
そして、お庭や建築は、住む人たちだけのものではない、ということも気を付けたいところです。
道行く人たちが、気持ちのよさそうな家や庭を見れば、同じような気持ちのよさを感じるものです。「家庭」とはまさに字の如くですね。併せて風土や環境にも寄与していきます。駐車場に敷く砂利やアプローチの石敷きは、地元の山から採れるものを使用します。風景への馴染みやすさは地元の石材ならではです。
土留めは、石積みが理想です。一つひとつの石の形状を見て、セメントで固めずに、強固な石積みをすることにより、排水性も良くなり地面が生き生きとします。石は数百年と使える数少ないメンテナンスフリーな素材です。コンクリートと違い、石積みは再利用も可能で、後世まで使えます。

(24)費用について

現在(2024年1月)の実績では、23坪程度~56坪程度で3,600万円~6,300万円程度となっています。
建築の費用は、どこまでを建築費に含めるのか、現状敷地がどのような状態なのかにより大きく変わってきます。インフラの整備状況、土地の高低差、周辺環境によっても大きく変化します。家のトータルの大きさも重要です。建築のコストのほとんどは、平米数(大きさ)や立米数(体積)に比例します。
当社で提案するお家のそれぞれは、とにかく安いものでもなく、無駄に高いものでもありません。普段の私たちから見て、素材とコストのバランスの取れたものでシンプルな計画を立てて、長持ちし、無駄な手間を抑えた家づくりをします。同じ工種項目でも、実際の職人さんやつくり手の考え方や、一つひとつの作業の仕方によっても変わります。当社の家づくりに携わる職人さんたちは、ほぼ固定のメンバーで技術もコストも人間性も信頼のおける仲間です。
いくらくらいですか、とよく尋ねられますが、計画がないところでコストの比較をすることは不可能で、計画があってもそのつくり方=費用の算出方法が異なる数字を比較することに意味はありません。「軒について」の項でも触れましたが、一般的には軒の出は坪単価に含まれないのです。照明器具やインテリア品、何をもってどこまでを建築費用とするのかは、まちまちです。決まった形の工業製品の家を、同じ条件の土地に建てるのであればコストの比較はしやすいですが、暮らし方や、周辺環境、建築地にあった自然の素材の家を建てるには、しっかりとプランし、イメージし、打ち合わせたうえで見積を出します。見積額がご予算を超える場合は、計画を見直しコストを抑える調整を検討します。

(25)お家を建てたあとのこと

当社は地域の工務店です。建築を依頼してくださった方に何かお困りのことがあれば、すぐに出向きます。
携わった職人さんたちも地元の人たちばかりです。自然素材の性質上、とくに築年数の浅いうちは、ちょこちょこと調整が必要なこともあります。季節に応じても変化します。
設備の故障については工業製品なので明確なラインで対応させていただいていますが、当社でつくる自然素材の家は、どこまでは無償、どこからは有償、という明確な線引きをしていません。私自身がメンテナンスや修理で出向くこともあります。簡単にできることはその場で対応できることもあります。技術が必要なときは、近くの職人さんに来てもらいます。部材を交換するときは、できそうならお客様と一緒に交換作業をすることもあります。シンプルなつくり方を心掛けているのは、修理も簡単にできることを大切なことだと考えるからです。
私自身、大工をしていた当時は、古い家の修理もたくさん行いました。在来工法でつくられ、特殊な工法を用いずにつくられた家の修理は、図面がなくともできてしまいます。どこの大工、工務店がつくったとわからなくてもです。
実は、こうしたことは今現在も、脈々とつながっています。このようなシンプルなつくり方を継承していけば、たとえ当社が存続していなくても、問題なく修理可能な家となります。
加えて、人間の病気と同じく、早期発見、早期対処は家のメンテナンスでも重要です。早期発見するためにも、住まい手が自分でメンテナンスできるようなシンプルな造りは有効です。メンテナンスの際に、何らかの問題に気づくことも多いからです。
当社では、定期的なメンテナンス勉強会も企画していく予定です。

(26)家づくりの流れ・土地の購入について

建築は土地の上に建てるので、敷地がないと建築できません。建築地をお持ちの場合はいいのですが、家づくりを決めたときに土地から探していくケースもあります。当社は建築屋ですから土地の売買はしていませんが、地元の不動産会社を紹介することはできます。
いろいろな物件を見るなかで、迷いや混乱が生じることもあると思いますが、当社での建築を検討してくださっている場合は、土地に応じたプランをイメージしながらアドバイスを差し上げることもできます。実はこの、「土地を選ぶ前に家づくりのパートナーを内定すること」はとても重要なことではないかと思っております。私たちは建築屋です。高低差のある土地であれば、土留めの種類や耐久性、既存樹木の活かし方、先に住んでいるご近所さんなどへの配慮具合、さまざまな方面でのアドバイスやプランニングの可能性を一緒に検討できます。
土地は個性です。土地の価格は人間が決めます。売りやすい土地は高く、売りにくい土地は安いです。一般的に売りにくい(人気のない)土地とされる多くは、変形地や高低差のある土地です。しかし、そこでしかできないプランができる可能性があり、そのプランに暮らしがマッチすれば、人気のない土地が、二度とない、最高の敷地に変わります。
敷地が確定すれば、ヒアリングをし、土地を見極め、プランニングをします。プランニングには1ヶ月ほど時間をいただきます。一生懸命考えたプランニングのプレゼンをし、大方気に入ってもらえるか、ヒアリングを行い間違いや方向性のずれがないかを確認します。その後、お見積もりをご提示し予算を調整していきます。
予算が調整できたら、実施設計を行います。およそ2ヶ月以上です。行政の許可や確認申請をし、着工となります。
ここまでで6ヶ月程度かかります。基礎着工から完成引渡しまでは、およそ8ヶ月です。
したがって、家づくりの依頼からおおよそ1年半後以降に完成するとお考えください。
当社は年間で6~7棟のお家を建てています。オーダーをいただいてから、さまざまな事情でスケジュールが変更になる場合もありますが、できるだけご要望に対応できるように努力します。